長時間労働とうつ病罹患――会社はどのような場合に責任を負うか(連載第4回)
弁護士・北海道大学名誉教授
吉田克己(村松法律事務所)
【控訴審における争点の概要と裁判所の判断】
(1)控訴審における争点の概要
(ⅰ)概観
第一審判決に対して、XおよびYの双方から控訴がなされました。
控訴審における争点は、第一審と基本的には同様ですが、安全配慮義務違反の有無と、この違反とうつ病発症および悪化との因果関係が論点であることが、より明確になっています。
(ⅱ)Xの主張
Xは、第一審判決がYの安全配慮義務違反の内容を積極的に認定していないことを問題にしました。
Xの主張は、ほぼ次のようです。
《Yは、Xの時間外労働の程度を知っていたか、あるいは知り得た。
したがって、Yは、Xの担当業務を減らすなどの措置を講じ(適正労働条件措置義務)、早期に心身の健康相談やカウンセリングを受診させ(健康管理義務)、十分な休養を与えるよう指示を出す(適正労働配慮義務)等の責任を負っていた。
しかし、Yは、何ら具体的対策を取ることなく、Xのうつ病を悪化させた。》
Xは、このような主張に基づいて、損害賠償の額についても、増額を求めました。
(ⅲ)Yの主張
これに対して、Yは、退職勧奨を不法行為とした第一審判決について、本件における退職勧奨は、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱していないとの反論を行いました。
しかし、この論点もさることながら、Yの主張の重点は、むしろ、第一審判決がXのうつ病の業務起因性を認めたことへの批判に置かれました。
そのポイントは、第一審判決がXの労働実態を十分に検討することなく労働時間のみで業務起因性の判断を行ったことは誤りだという主張にあります。
それは、第一審判決がその基礎とした札幌中央労働基準監督署の労災認定への批判でもありました。
Yは、その主張を根拠づけるために、これまでの裁判例をいくつか引用し、そこでは、疾病と業務との相当因果関係の判断に際しては、労働時間のみならず、仕事の質および責任の程度等が過重でなかったかを考慮する必要があるとされていることを示しました。
その上で、Yは、Xの仕事の質・責任の程度等、具体的な業務内容、作業の進捗状況、Xに対する協力・支援の態様等を、具体的に、かつ、詳細に明らかにしました。
そして、本件の具体的状況を次のようにまとめました。
《「2005年当時のXの労働の態様は担当していた業務の負荷に比して労働時間が長いという状態であり、このことはXの労働密度が著しく低かったことを意味する上、YによるXに対する協力・支援が行われていたことを合わせ考えると、およそXには業務上の強い心理的負荷があったとはいえず、タイムカードの記載のみでXのうつ病の業務起因性を肯定した労災認定にはおよそ信用性があるとはいえない」。
したがって、この労災認定に依拠してXのうつ病と業務との因果関係を肯定した第一審判決は誤りである。》
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