配偶者に家を遺すには?①
民法が改正され「配偶者居住権」という権利が新しく創設されました。今回は、配偶者居住権がどのような権利なのか、遺言書を作成する際に、遺した方が良いものなのかどうかについて取り上げます。
1 配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、相続人となる配偶者が、亡くなった方(被相続人といいます)名義の建物に、配偶者が亡くなるまで又は一定期間無償で使用する権利です。
配偶者居住権を取得するには、次の条件を満たす必要があります。
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- 被相続人が亡くなった時点で、配偶者が被相続人の所有する建物に居住していたこと
- 被相続人が当該建物を配偶者以外の者と共有していないこと
- (ア)遺産分割協議で配偶者居住権を取得することとされたとき
または
(イ)配偶者居住権を遺贈されたとき
※令和2年4月1日以降に、被相続人が亡くなった場合または被相続人が遺言書を作成した場合に限られます。
なお、①の「居住していた」とは、配偶者が自宅に家財道具等を置いたまま、病気や体調不良等を理由に一時的に入院、施設入所または親戚宅で同居していたにすぎないような場合は、「居住していた」と認められるケースがあります。
2 配偶者居住権はいつまで存続するのか?
配偶者居住権は、原則として、配偶者が亡くなるまでの間とされています。しかし、遺産分割協議や調停もしくは遺言において、終身ではない存続期間を定めることも可能です(民法1030条)。
ただし、配偶者居住権の存続期間を定めた場合には、その延長や更新ができせんのでご注意ください。配偶者居住権の存続期間を終身にしないことのメリット・デメリットは後記します。
3 どのような場合に役立つのか?
【事例】
Aさんには、妻Bと子Cがいます。 子Cはすでに独立しており、Aさんと妻Bと二人暮らしです。 Aさんは、遺された妻Bが安心して暮らしていけるような遺言を作成することを希望しています。
【Aさんの資産】 ① 自宅土地建物(Aさん単独名義) 2000万 ② 預貯金 2000万 |
Aさんの場合、①現在住んでいる自宅土地建物で、②Aさんの単独名義となっていることから、妻Bに配偶者居住権を遺贈することが可能です。では、Aさんの場合、配偶者居住権を遺贈する遺言書を作成した方が良いのでしょうか?
⑴ 遺言を作成しないまま死亡くなった場合
まず、Aさんが遺言を作成しないままなくなった場合を考えてみます。Aさんの資産は、合計4000万円ありますので、これを法定相続分通りに分けた場合、次のようになります。
相続人 | 法定相続分 | 取得額 |
妻B | 1/2 | 2000万 |
子C | 1/2 | 2000万 |
妻Bが、愛着のある自宅に住み続けたいことから自宅土地建物①を取得したいと希望したとします。
妻Bが自宅の土地建物を取得した場合、自宅の土地建物だけで取得する遺産が2000万円に達しますので、預貯金を一切取得できなくなります。妻Bに個人資産が十分にあればよいのですが、現預金がない場合、妻Bの今後の生活に支障を来す場合もありえます。
他方で、妻Bが預貯金2000万円を取得すると、妻は住む場所に困ります。これでは、妻Bが安心して暮らしていけるようにしてあげたいというAさんの気持ちは反映されない結果となります。
⑵ 配偶者居住権を遺贈した場合
このような時に役立つのが、配偶者居住権です。
配偶者居住権をいくらと評価するのかについては、非常に煩雑なため今回は割愛しますが、仮に800万円であったとします。その場合、次のように妻Bは一定の預貯金を獲得することが可能となります。
相続人 | 法定相続分 | 取得する遺産 | 取得額 |
妻B | 1/2 | ○配偶者居住権800万
○預貯金1200万円 |
2000万 |
子C | 1/2 | ○自宅土地建物1200万円(評価額から800万円を控除した額)
○預貯金800万円 |
2000万 |
妻Bは一定のまとまった預貯金を取得できますので、生活に困りませんし、配偶者居住権を取得することで自宅に住み続けることができ、住むところにも困らずに済みます。
したがって、Aさんの場合は、Aさんの希望通り妻Bが安心してくらしていけるようにしてあげるために、配偶者居住権を遺贈することをお勧めします。
4 遺言書に遺しておくメリット
配偶者居住権は、前記のとおり、遺産分割協議などで定めることも可能です。しかし、相続人間の話し合いがうまくいかないこともありえますし、大切な人を喪った際に、遺産について話し合うことは相続人にとって負担になります。そのため、Aさんの希望を確実に実現するためには、遺言書を作成することが必要となり、これにより相続人の負担も軽減させることが出来るというメリットがあります。
もちろん、Aさんは、妻Bに法定相続分を超えた額の預貯金を遺してあげることも可能です。ただし、この場合は、子Cの遺留分に配慮する必要がありますので、どのような遺言書を作成するかは一度弁護士に相談しておくことをお勧めします。
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