自動車の自動走行と民事責任
1 はじめに
近時、高齢者等の運転操作ミスによる交通事故が増加したことなども要因となり、各自動車メーカーによる自動走行システム(自動運転技術)の開発が活発になっています。
そのような中、これまでの交通事故と異なり、自動走行システム使用時に、交通事故が発生した場合、運転者に責任がないとして、適切な賠償がなされず、被害者の保護が図られないケースがあるのではないかという点が法的な問題点としてあげられています。
2 自動走行システムの使用による人身事故
⑴ 人身事故に関する民事責任
現在、人身事故が生じた場合、民法709条の不法行為のほか、自動車賠償責任保障法(以下「自賠法」といいます。)3条がその民事責任について定めています。
自賠法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定め、例外的に①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことの3要件を充たした場合に限り、責任が免除されることとされています。すなわち、自賠法3条の責任は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(これを「運行供用者」といい、運転者や所有者などが該当し得ます。)の側において、自らの無過失を立証しなければ免れることができないため、実際に責任が免除されることは少なく、広く被害者の保護が図られています。
⑵ 自賠法3条について
自賠法3条が、上記のように厳格な責任を定めている根拠については、自動車の運行の危険を支配できる者に厳格な責任を課す危険責任と、自動車の運行から利益を得ている者に不利益を課す報償責任にあるとされています。
つまり、自身が運転している場合はもちろんのこと、他人に自身の保有する車両を運転させた場合についても責任を負うことになります。
⑶ 自動走行システムと自賠法3条
自動走行システムについては、運転支援から完全自動運転に至るまで、そのシステムに差異はあるものの、いずれの場合においても、自動車の保有者は自賠法3条による責任を負うと考えられています。
自動走行システムがあくまで運転支援システム等の補助的なものにとどまる場合には、交通事故が運転者による操作ミスやシステムの監視不足等に起因する場合が多く、これまでの交通事故と同様、運転者に過失が認められる事案がほとんどであると考えられます。
他方、完全自動運転の場合には、運転という行為が介在しない以上、運転者の過失によることは基本的に考えられず、そのような場合には、運転者本人についての責任はないと考えられます。しかし、車両保有者については、自身で目的地を定め、当該車両を運行させているうえ、それにより移動するという運行利益を得ていることからも、自賠法3条による責任を負うものと考えられます。
*この点について、自動車に構造上の欠陥または機能の障害が存在したものと考えられることから、自動車のメーカーの責任(製造物責任等)も問題となりますが、ここでは割愛いたします。
3 自動走行システムによる物損事故
物損事故については、自賠法3条の適用がなく、現在の法制度においては、民法709条(不法行為)によって、その保護が図られています。
自賠法3条は、先にも述べたように、運行供用者に無過失の立証責任を負わせることで、広く被害者救済を図っています。他方、民法709条の定める不法行為責任は、被害者側において運転者の過失を立証できなければ、責任追及することができません。すなわち、自動走行システムが運転支援システム等の補助的なものにとどまる場合には、上記のとおり運転者の過失が認められるケースが多いと考えられるため、物損事故の場合でも被害者の保護は図られると考えられます。
他方、完全自動運転の場合、その事故の原因はシステムの欠陥等によるため、基本的には運転者に過失が認められないと考えられることから、このような場合には運転者が不法行為責任を負うことはないと考えられます。また、自賠法3条の適用がない以上、車両保有者としての責任も発生しません。
そうすると、完全自動運転の場合には、(システムの欠陥を証明することにより製造物責任を自動車メーカーに問う場合は別として)被害者の保護が十分に図られない可能性があるといえます。
加えて、自動走行システムを搭載した車両の物的損害が高額になる可能性もあり、この点については、今後の法改正や自動車保険の保障範囲の拡大等による被害者保護が図られる必要があると考えられます。
4 おわりに
自動走行システムについては、現在もその技術が日々進歩しており、今後交通事故は大幅に減少することが十分に想定されます。しかし、交通事故がゼロになるわけではない以上、今後も当事務所は、被害者の方々への適切な賠償を実現するべく活動して参ります。
自動走行システムの有無にかかわらず、交通事故の被害によりお困りの方がいらっしゃいましたら、当事務所にご相談ください。
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