新型コロナウィルス感染症に関する企業の対応③
●新型コロナウィルスに伴う出勤停止と出勤が停止となった社員に対する給与の支払義務について
1 新型コロナウイルスへの感染が疑われる社員に対する出勤停止措置について
⑴ 感染が判明した社員または感染が合理的に疑われる社員に対する対応
会社としては、社員の生命身体に対する安全配慮義務の一環として、業務中の社員が新型コロナウィルス感染症に感染しないよう配慮するべき義務が認められます。
したがって、感染が判明した社員はもちろんのこと、感染者との濃厚接触が認められる社員、政府から発表のあった新型コロナウィルス感染症に感染した場合に発現する諸症状(4日以上の発熱、味覚障害、咳、倦怠感、呼吸困難等)が認められる社員に対しては、会社として出勤停止を命じるのが適切でしょう。
そして、出勤停止期間中、社員本人が有給休暇の取得を希望している場合には、有給休暇の取得申請を提出してもらって構いません。
なお、年次有給休暇については、企業側から社員に対して取得を強制できませんので、あくまで社員本人の意向に基づき取得させなければなりません。
⑵ その他感染が疑われる場合
判断が難しいのは、上で述べた諸症状がないものの、一時的な発熱や咳が認められた社員に対する対応です。
会社として考慮するべきは、当該社員が休業した場合の業務への支障と出勤を許容したものの、後日感染が判明した場合の業務への支障のいずれが大きいかという点でしょう。
会社として、後日感染が判明した場合の業務への支障を回避したいと判断した場合には、出勤停止命令を出す前に、在宅勤務(リモートワーク)を命じ、健康状態について引き続き会社に報告するよう指示するか、リモートワークが困難な場合には、出勤停止を命じるほかないでしょう。
2 出勤停止を命じた場合の給与(休業手当)の支払義務
⑴ 出勤停止を命じた場合の休業手当の支払義務について
出勤停止による休業が「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合には、給与の支払義務を免れることができません。
一方で、使用者の責に帰すべき事由によらない休業と判断される場合には、給与の支払義務を免れることになります。
⑵ 感染が判明した場合
新型コロナウイルス感染症への罹患が判明した社員に対して出勤停止を命じた場合には、同感染症が感染症法上の指定感染症に指定されており、都道府県知事による就業制限が行われる以上、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたらず、休業手当の支払義務も発生しないと考えられます。
⑶ 感染が合理的に疑われる場合
37.5度以上の発熱が数日間続いたり、呼吸困難等の症状が認められるような状況であれば、現在まで判明している新型コロナウイルス感染症の症状が顕在化しており、同感染症への感染が合理的に疑われるといえるでしょう。
そのような場合、当該社員の出勤を回避し、他の社員やクライアントへの感染を防止すべき義務が強く認められるとともに、社会通念上も、当該社員において職務の継続が不可能といえます。
したがって、仮に当該社員に対して休業を命じたとしても、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたらないと考えるべきでしょう。
もっとも、厚生労働省の見解によると、症状の程度によっては休業手当の支払義務が認められる余地があるようです。
したがって、感染の合理的な疑いが認められない状況で出勤停止を命じた場合、休業手当の支払義務を免れない可能性も十分に考えられますので、注意が必要です。
⑷ その他感染が疑われる場合
上記場合以外で感染が疑われる社員に対して出勤停止を命じた場合ですが、職場における感染拡大を防止するためといえども、あくまで感染が合理的に疑われる状況ではなく、就労可能性も認められることから、企業側が自主的に出勤停止を命じたと判断される可能性が高いといえます。
その場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いを免れることはできないでしょう。
もっとも、感染者との濃厚接触が明らかに認められる場合などについては、個別具体的な事情により、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しない可能性もあると考えられます。
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