判例速報:犯人自身が、他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させる行為について、刑法104条の証拠隠滅罪が成立するとした最高裁判例(弁護士 内田健太)
犯人自身が、他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させる行為について、刑法104条の証拠隠滅罪が成立するとした最高裁判例(令和5年9月13日・令和5(あ)134 )について
中小企業診断士・社会保険労務士・弁護士(元労働審判官・裁判官)
内田健太
1 問題点と過去の議論状況
⑴ 問題の所在
刑法104条には「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅」した場合に証拠隠滅罪が成立すると規定されています。したがって、犯人が、自分自身の証拠を正犯として隠滅する行為については犯罪が成立しません。
本件は、犯人が、自分の証拠の隠滅を他人に教唆(他人をそそのかして犯行を決意させること)した場合に、犯人自身に証拠隠滅罪の共犯が成立するかが問題になった事案です。
要するに、「自分で自分の証拠を隠滅する場合には無罪だとして、他人をそそのかして自分の証拠を隠滅させることも無罪になるのか」が問題になった事案です。
⑵ 従前の議論状況
この問題点については、昭和40年代の最高裁判例において、既に、他人を教唆した場合には犯罪が成立するという判断が出されていました。
もっとも、この点について、学説上は、「責任が重いはずの正犯として証拠を隠滅した場合には無罪なのに、正犯に従属な立場である共犯(教唆犯)として行った場合には処罰されるというのは不当である」という反対意見が根強く存在している状況でした。
2 最高裁の判断
最高裁は、特段の理由を示すことなく、過去の判例を引用して、「犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは、刑法104条の証拠隠滅罪の教唆犯が成立すると解するのが相当である」と判示し、判例を変更する必要はないとの判断をしました。
なお、本判決には、刑法出身の学者である最高裁判事による、「正犯が処罰されないのに,それよりも因果性が間接的で弱く,それゆえ犯罪性が相対的に軽い関与形態である教唆犯は処罰されると解するのは背理であるといわざるを得ない。」旨の反対意見が付されています。
3 本判決の意義
我が国においては、最高裁判例が有する影響力は絶大です。最高裁の判断を前提にして行動をしなければならないケースが多いことは事実です。他方で、現在、社会情勢の変動速度は早く、過去には適切であったルールが今日では合理性を失っているという例は少なくありません。
例えば、最高裁は、昭和45年当時には、「強制わいせつ罪の成立には犯人の性的意図が必要である」という判断をしていましたが、社会情勢の変化等を踏まえて変更し、「犯人の性的意図は不要である」というように判例を変更するに至っています(平成29年11月29日判決)。
本判決は、結論としては判例を変更していませんが、反対意見が付されていることからしても、判断を維持するにあたって、最高裁内部で相応の議論がなされたことがうかがわれます
当事務所としても、常に最新の判例や社会情勢の変化など、最新の動向をチェックし、安易に過去の判例・ルールを踏襲するのではなく、「既存の判例やルールを変更する必要はないか」という観点をも踏まえた弁護活動に取り組んでまいります。
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