トピックス

HOME > 判例速報:懲戒免職処分を受けたことによる、退職手当等の全部不支給処分の違法性に関する最高裁判例(弁護士 内田健太)

判例速報:懲戒免職処分を受けたことによる、退職手当等の全部不支給処分の違法性に関する最高裁判例(弁護士 内田健太)

公立学校の教員が懲戒免職処分(酒気帯び運転)を受けたことに伴い行われた退職手当等の全部不支給処分が違法ではないと判断された最高裁判例(令和5年6月27日・令和4年(行ヒ)第274号)について

中小企業診断士・社会保険労務士・弁護士(元労働審判官・裁判官)
内田健太

 

1 問題点

本件は、公立学校の教員が懲戒免職処分(酒気帯び運転)を受けたことに伴い行われた退職手当等の全部不支給処分の有効性が争点となった事案です。

2 高裁の判断

高等裁判所は、当該教員について「本件非違行為の内容及び程度等から、一般の退職手当等が大幅に減額されることはやむを得ない。」としつつ、以下の事情を踏まえれば、退職手当等の全部を不支給としたことは裁量を逸脱した違法なものであり、3割相当部分については支給がされるべきである旨判断していました。

①当該教員が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと
②約30年間誠実に勤務してきたこと
③本件事故による被害が物的なものにとどまり既に回復されたこと
④反省の情が示されていること

3 最高裁の判断内容

⑴ 退職金不支給決定の適法性の判断方法

まず、最高裁は、不支給決定の適法性の判断方法について「退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した と認められる場合に違法であると判断すべきである」との立場を示しました。

⑵ 本件における不支給決定の適法性

その上で、最高裁は、以下の事情からすれば、「被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって 誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。」と判断し、高裁の判断を変更しました。

① 非違行為の態様は重大な危険を伴う悪質なものである
② 公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであった
③ 本件非違行為の前年から、県教委が飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていた

⑶ 反対意見の存在

なお、本判決には、今回の退職金の不支給処分は、過去の先例との対比等の観点から重すぎる等と指摘した上、高裁の判断が違法とはいえないという裁判官1名による反対意見が付されています。

4 最高裁判例の意義

⑴ 本判決の要約

退職金不支給決定の適法性の判断方法に関する最高裁の判断内容は、要するに「退職金を支給するか否かについては、基本的に支給権者の裁量を尊重する。そのため、裁判所が、どの範囲で退職金支給するべきかどうかを一から判断するのではなく、支給権者の判断が明らかにおかしいと思われる場合に限り、不支給決定を違法とする。」というものです。支給権者の判断の裁量を広く認める点が注目されます。

最高裁は、そのような判断方法を前提に今回の全部不支給決定についても、明らかにおかしいと思われる点はないとの判断をしています。今回の全部不支給決定だけが唯一の正解であると判断したわけではない点については注意が必要です。

⑵ 反対意見が存在する意味

また、本判決には、学者出身の裁判官による反対意見が付されています。最高裁の内部でも、結論をどのようにするのかについて、相当な議論が行われたことが推察されます。

最高裁が、過去の同種事例と比べて重い処分である今回の全部不支給を違法と断定しなかった背景には、近時における飲酒運転禁止に関する意識の高まりという社会情勢の変化の尊重という価値判断が背後にあることが推察されます。

⑶ 本判決が与える影響

本判決は、公務員に関する判断ですが、最高裁が、支給権者の裁量を広く認めたことは、一般企業における退職金不支給の適法性判断にも影響を及ぼす可能性があります。

 当事務所としても、退職金の支給・不支給に関する相談を受けた場合には、社会情勢の変化や最新判例の動向を踏まえ、事案に即した適切なアドバイスを提供できるように努めてまいります。

〒060-0002
札幌市中央区北2条西9丁目インファス5階
TEL 011-281-0757
FAX 011-281-0886
受付時間9:00~17:30(時間外、土日祝日は応相談)

はじめての方でもお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

お悩みや問題の解決のために、私たちが力になります。折れそうになった心を1本の電話が支えることがあります。
10名以上の弁護士と専門家のネットワークがあなたの問題解決をお手伝いします。まずはお気軽にお問い合わせください。