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判例速報:定年後の労働条件に対する最高裁判例(弁護士 内田健太)

定年後の再雇用契約の基本給等が定年前に比べて低額であることが、労働契約法20条に違反するかが問題になった最高裁判例(令和5年7月20日・令和4(受)1293)について

 

 

 

 

 

 

 

 

中小企業診断士・社会保険労務士・弁護士(元労働審判官・裁判官)

内田健太

 

1)問題点:
本件は、定年後の再雇用契約の基本給等が定年前の基本給と比べて低額であることが、有期労働者と無期労働者の労働条件についての不合理な労働条件の相違を禁じた労働契約法20条(当時)に違反するかが問題になった事案です。
判決文によれば、上告人の一人についての基本給の内容は以下のとおりであり、再雇用後には基本給が半額以下に減額されることになっていました。

【定年退職時】 月額約18万円
【再雇用後】  初年度約8万円、翌年度以降約7万5000円

2)高裁の判断:
名古屋高裁は、要旨「定年前基本給の6割を下回る部分については、労働契約法20条に違反する不合理な相違である」旨判断していました。

3)最高裁の判断内容:
これに対し、最高裁は、「正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」旨判断し、事件を名古屋高裁に差し戻し、追加の審理を命じる旨の判決を下しました。

4)最高裁判例の意義:
上記判断内容は、要するに「基本給の性質・目的や労使交渉の具体的経緯等について高裁までの審理が不十分であり、現時点では、相違が不合理か否か判断できない。再度高裁でしっかりと審理をやり直してほしい」。というものであり、最高裁自体が、今回問題となっている基本給の格差が不合理なものか否かについて判断を示したものではないという点に注意が必要です。今後の本判決の推移については注意深く見守る必要があります。

他方で、最高裁が、判決文において①「退職前の基本給と再雇用後の基本給の性質・目的」②「労使交渉の具体的な経緯」について特に再審理を求めていることは着目するべき点といえます。

すなわち、本判決は、各企業に対し、各会社の給与の実態を踏まえ、労使間で十分な交渉を行った上、会社の実態に即した適正な再雇用後の報酬形態を構築するべきというメッセージを示唆するものといえます。

なお、現在では当時の労働契約法20条は削除されていますが、同様の条文がパートタイム・有期雇用労働法8条に引き継がれており、本判決の持つ先例的意義は失われていないといえます。

当事務所においても、同種事案のご相談を頂いた場合には、画一的に「6割までであれば適法である」等といったアドバイスをするのではなく、依頼者の給与体系の実質・経緯についてしっかりとお話をお伺いした上、依頼者の皆様の実態に沿った適切な提案ができるよう心掛けてまいります。

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